新10 1-
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風が止まる。
空気が張り詰める。
鳥達は木々から一斉に飛び立ち、虫たちは地に潜り、グラウンドには22の生命のみが残った。
その場にいる誰もが、チェス盤上の駒のように動かずにいた。
そしてその空気の中、ひとつの駒が、数メートル先に向かい合って立っている駒に語りかける。
女「……覚悟はいいか、男?」
その言葉が放つ威圧感は、盤上の10の駒に闘気を、他の10の駒に緊張を与えた。
語りかけられた駒が、言葉を発し終わった後も依然として威圧感を放ち続ける駒と視線を合わせる。
睨み合う二つの駒はさしずめ、兵を全てなくしたキングであった。
男「ああ、だが……」
女「だが、何だ?言っておけ。最期の言葉になるやもしれんぞ?」
女は楽しそうに笑う。その表情のどこにも陰がない。
男「……お前とはこんな形で『決闘』したくなかった」
女「何故だ?私は今、最高に楽しい。お前は違うのか?」
男「……」
女「まあ、いくら話し合ってもしょうがない。戦いに理由を造るのは無粋だ。
――いくぞ」
女は男に視線を向けたまま、左後ろに一歩下がる。
続けてもう一歩。更に数歩。
女が立ち止まると同時に、男は口を開いた。
「確かに、楽しいよ。これ程まで楽しいことは今までなかった」
その声は女に届かない。

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