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106:秋雨と台風〜16 9/16 4:24:59.07 ID:CjKpOFIs0
男「……好きだ」
そして。言葉にした瞬間。その気持ちは、明確な波動となって、胸に浸透していくのがわかった。
女「……っ!」
男「だから……その、大切にしたいとも思ってるし」
女「おと、こ……だったらっ!!私を――」
彼女にその言葉を言わせる前に。
男「……」
ただ――女を抱き締めていた。
女「おと、こ……」
男「無理するな。怖いんだろ」
女「……っっ!!」
男「……俺も、怖いのかもしれない」
女「……ぇ」
男「今の関係が――気持ちのいい、二人の関係が、別の形に変わってしまうんじゃないかってさ」
女「男……」
男「だからさ」
手と手を重ね。二人寄り添って――今はまだ、これでいい。
男「だから……今日は、おやすみ」
女「……」
腕の中、強張っていた身体から力が抜けていく。そして。
女「……うん、おやすみ」
どこか、安堵したような呟きが、聞こえた。
熱苦しいコイツと、ともに過ごす騒々しい日々のなか。もっと傍にいられるように、もっと近付けるように。ちょっとだけ、努力してみようか。
焦らなくてもいい、急がなくてもいいから――ふいに、そんなことを思ったんだった――
翌朝。
女母「……あらあら」
女の部屋を覗いた女母は小さく微笑んだ。
そこには。幸せそうな寝顔で、寄り添うようにして小さな寝息を立てている、二人の姿があった――
了
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