新10 1-
187:ふたりの未来〜8 9/19 1:30:29.31 ID:YbihP0dV0
そして時は流れた……
男「……よく咲いてるな」
春の陽射しも暖かな満開の桜並木の下を、一人、歩いている。
一人で迎えた、この都会の街での二度目の春。
正直、どうにかなりそうな時もあったが――何とか、それなりにやってこれたと思う。
そんな日々の生活の中。時の流れは心に積もった余計な澱を洗い流し、そこにもともと在った気持ちの輪郭をさらけ出させていた。
会いたかった。今ならばきっと……そんな益体のない思考が、脳裏を埋め尽くす。
そのとき。春風が柔らかに思考を遮り、桜の花弁を巻き上げながら吹き抜けていく――と。
男「……ぁ」
舞い散る桜の向こうに――一人の女性が、こちらに背を向け、立っていた。
燦燦と降り注ぐ陽光に照らし出された優美なその立ち姿に、時を忘れていた。幻を見ているのか――そう思ったが、どうやら違うらしかった。
?「……綺麗だな。ここの桜は」
こちらに背を向けたまま呟く言葉は。間違いなく、俺に向けられているものだとわかった。
言葉に詰まる。感極まって視界がぼやけて見えたが、何とか持ち直すことができた。
男「……ああ。去年はひどく物悲しく見えたが……今は、随分華やかに見えるもんだ」
?「心境の変化ってやつか?」
男「そうかもしれないな」
?「……そうか」
そうして、『彼女』はこちらを振り返った。

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